
御坊の古民家
種別/リノベーション
所在地/和歌山県御坊市
構造/木造平屋建
延床面積/157.79㎡・LOFT 23.45㎡
竣工年/2025年
Photo/今西 浩文
時代を住み継ぐ
祖父母の代からご両親、そして孫世代へと代々受け継がれた築88年の古民家。
過去には、水回りの増改築や玄関土間への洋室の増設、ダイニングスペースの改修が行われており、住まいの変遷と共に家族の思い出がありました。
ただ、耐震や断熱など根本的な問題に直面する中で、“積層された歴史”をどのように受け継ぎながら現代的な暮らしへ再構築するか、ご家族と共に検討を重ねました。
計画では、耐震性の向上を図るべく、伝統工法を活かした限界耐力計算に基づく耐震補強を全面的に行っています。屋根の軽量化、耐力壁の増設と共に、腐食していた柱については根継ぎまたは取り換えを、蟻害のあった差鴨居は手刻み加工のうえ取り換えを、木材の反りや癖を見越した地元の大工による熟練の技術によって実現しました。新たに加える素材についても、紀州材を中心とした地場木材を使用し、新旧の調和を図るよう意図しています。
又、並行して、何処を残し、改修・転用するのかを一つ一つ吟味しながら慎重に進めました。
具体的には、南側に家族の集いの場を設けた回遊性のある間取り構成へ再編集する中で、元南側仏間に使われた天井材や欄間を北側和室に移設転用、黒檀の床柱を加工し棚板に再利用、元洋間の意匠の継承、祖母様から受け継ぐ桐箪笥の再生などを計画しています。
加えて、省エネルギー性への配慮を心掛けた計画としています。
サッシ類、床下断熱材、及び天井断熱材を含めて、省エネ適合義務化の仕様規定に適合する仕様としています。尚、土壁については土自体が持つ蓄熱性、調湿性を活かすため、可能な限り内装を左官仕上げとしました。
古民家の特性を活かしながら、必要箇所を現代の技術で補うことで、快適な住環境を実現しています。
結果、新しさの中に家族の歩んだ時代ごとの痕跡が感じられる、
“古さと新しさが溶け合うハイブリットな住まい”となりました。

リビング拡張の増築を行いながら仕上げ材を更新し、外観を再構築しています。
屋根は軽量化を図るため、土葺き丸瓦から乾式軽量瓦へ葺き替えました。

広々とした玄関ポーチ。
お庭を眺めながら夕涼みするのに丁度良いスペース。

深い軒が夏場の直射日光を遮り、冬場の暖かな日差しを屋内へ届けます。

母屋を支える大きな登り梁。
垂木は現況を活かし、野地板は杉板で更新しています。

丸窓からは玄関土間の灯が覗く。

玄関を入ると元縁側の玄関土間。動線が左右に分かれ、一方はLDKへ。
扇型のニッチは家紋からヒントを得たもの。
棚板は黒檀の床柱を加工し転用しました。

もう一方はキッチン、水回りへと続き、LDKへとぐるっと回れる回遊動線。
陶器でできた照明は、あかりを灯すとほのかに色付きます。

LDKへ向かう動線の先には印象的な土佐組子耐力壁。
ガラスを嵌め込み気密を確保しています。

建具を潜り、熊野の杉、桧で包まれたLDKへ。

リビングの先は南側へ増築を行うことで、縁側をリビングに取り込みながら拡張しています。
暖かなサンルームのようなスペースとなりました。

ダイニングからリビングを望む。
TV、エアコン、可動棚は格子引分け戸で隠せる仕様としました。

北側和室はリビングとの繋がりを重視し、建具を完全に引き込むことが出来るよう計画。
加えて、ロフトにも内窓を設ける事で風が通り抜けます。

北側和室には、元南側仏間に使われた天井材や欄間を移設転用しました。
造作の掘り炬燵は、使わないときは畳を嵌め込むことができます。

世代を超えて受け継がれた桐箪笥。
修理を経て見事に再生されました。

和室北側には縁側が続きます。

元は木製雨戸しかなかった縁側。
断熱窓を介して中庭を望みます。

厨子のある天井高が抑えられた和室は、寝室として計画。
重心が低く落ち着いた印象。

リビングからダイニング、キッチンを望む。

ダイニングテーブルは脚を造作で制作。
職方と相互にアイデアを出しながら、細かな納まりを詰めました。

ハンドメイドのランプシェード。
木肌を活かした柔らかな灯りがダイニングを照らします。

キッチン前にはカウンターを造作。天板は施主様、自ら買い付けに行かれたヒバ材の一枚板。
キッチン背面の固定棚には、特産の黒竹をブラケット兼配線スペースとして活用しています。

キッチンは天井高を確保するため段差を設ける事で、
対面のカウンターに座った時、ちょうど目線の高さが合うように計画。

洗面コーナーは隣接する倉庫からの手洗い動線も考慮し配置。

落ち着いた印象のトイレ。
信楽焼の陶器をコーナーに配置しています。

回遊動線の延長に、WICを介して書斎を計画。
元洋室の意匠を継承し、レトロな雰囲気に。

厨子へは新たに階段を設けました。

元は土の荒壁そのままの状態でしたが、左官を下地から仕上げまで全てDIY。
本当に大変な作業でしたが、更なる住まいの愛着へと繋がります。

厨子からの見下ろし。
新たな木材も経年変化し、家族の歴史の一つとなります。
BEFORE






