
ふじ乃や奥の院
種別/リノベーション
所在地/和歌山県田辺市
構造/木造平屋建、木造2階建
延床面積/219.41㎡
竣工年/2026年
Photo/今西 浩文
祈りの記憶を継ぎ、時を紡ぐ一棟貸しの宿
かつて地域の人々が集い祈りを捧げてきた旧寺院を、コンバージョンした一棟貸しの宿泊施設です。
古くから熊野詣の玄関口(口熊野)として旅人を迎えてきたこの地の歴史性を汲み取り、本計画では「記憶の継承」と「地域風土との関わり」を設計の核としています。
初めて建物を訪れた時、相応の経年劣化が見られる一方で、その中で感じた陰影の奥にある凛とした静けさが、心落ち着く場を生み出していると感じました。その印象を手掛かりに、長い時間の中で培われてきた「陰影」そのものに価値を見出し、計画を進めました。
具体的には、寺院建築特有の架構に補強を施しながら、過去の記憶とそのスケール感を現代へと継承しています。
また、空間を彩る素材には、熊野の豊かな風土が育んだ地域の素材を厳選して採用しました。
足元にやわらかな質感を伝える紀州杉、空間を引き締める黒竹の繊細なライン、そして浴室に清々しい香りをもたらす檜。かつての重厚な陰影の中に、現代の光と地域の素材を織り込むことで、過去と現在が静かに重なり合う空間へと再構築しています。
聖地・熊野への旅のはじまりに、土地の素材に包まれ、時の重みに身をゆだねながら心を整える。
この場所が歩んできた歴史と風土を肌で感じる、静けさと陰影に包まれた滞在空間を目指しました。

丁寧に彫り込まれた懸魚の妻飾りと、重厚な瓦屋根の佇まい。

手前の旧本堂と、奥に並ぶ離れの2棟からなる建物構成。

格式ある屋根組みに、暖簾を掲げた佇まいが出迎えます。

屋号をあしらった白麻の暖簾が、奥の格子戸へと視線を導く。

暖簾の先に続く、旧本堂の面影を残した深い軒下。

回廊の先のリビングスペースへ。

旧本堂の竿縁天井と広間を活かした、畳敷きのリビングスペース。
中央上部にあるのは映像投影用のプロジェクター。

障子越しに広がる回廊からの柔らかな光。

障子を開け放つと庭の緑が広がる。

旧祭壇の段差を活かし、畳敷きの広間を見渡すBAR KITCHENを計画。

カウンターには熊野の黒竹を使用。質感豊かな表情が空間に落ち着きを与えます。

旧寺院ならではの太い柱。
付鴨居には映像投影用のスクリーンを設置しています。

BAR KITCHENから望む。

高座のカウンターから視線が抜ける、旧寺院ならではの伸びやかな大空間。

掛け軸と和の意匠が残る、落ち着きのある寝室。

寝室はなるべく手を加えず、往時の雰囲気を残した。

廊下の先には手洗いスペース。
使い込まれた板の間は旧寺院ならでは。

庭は既存の植物を活かしながら、設えました。

植物の瑞々しさが建物に彩を添える。

玄関を出て離れへ。
元宿舎の建物を外壁を更新し、新たに木製玄関戸と庇を計画。


玄関土間はポーチから続く洗い出し仕上げ。
ホール上部には新たに吹抜けを設けました。

吹き抜け上部の窓から本堂の瓦を望む。

2階客室には屋内窓を設け、光、風、視線を導く。

離れの客室も往年の雰囲気を残す。

上階のある客室は天井が低いため、自然と落ち着いた雰囲気に。

洗面室はゆったりとした広さを確保。

洗面室の隣の脱衣室へ。

脱衣室から浴室へ。

紀州の檜材とタイルを使用した広々とした浴室。

浴槽床を下げることで、跨ぎを少なくし、かつ水面と庭が近づくよう配慮しています。

庭の緑が水面や壁面に反射し、奥行を醸し出す。

時間が経つにつれ、表情を変えていきます。

日が暮れると、本堂はより落ち着いた雰囲気に。

柔らかな間接照明の灯が空間を彩る。

食卓を片付けると広々と使う事ができる。

庭のライトアップを楽しむひと時。